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沖縄県南風原(はえばる)町の町立南風原文化センターで9日、同県北谷町の伊禮(いれい)若奈さん(37)の初の写真展「母になった記憶」が始まった。会場は昨秋、61歳で急逝した写真家の平敷兼七(へしき・けんしち)さんとともに撮影に入った旧陸軍病院壕(ごう)の前にある。戦争遺跡での仕事を最後に逝った先輩の「初個展はここで」という遺言を守った。
伊禮さんは県立普天間高校を出た後、写真家をめざし、23歳のときに東京綜合写真専門学校を卒業した。沖縄に戻って婚礼スナップカメラマンになり、29歳で結婚。生活の中にカメラを入れたが、テーマを見つけられないでいた。
昨春、友人の写真展を見に上京した際、写真学校の恩師に「家族の写真を撮ったらいい」とアドバイスを受けた。そのころ、写真学校の先輩である平敷さんにも出会った。
平敷さんは生まれ育った沖縄を独自の視点で撮り、2008年に伊奈信男賞を受けた。昨年、南風原文化センターの新築移転を前に館内に展示する写真の撮影を町から依頼された。人骨や病室跡が残る旧陸軍病院壕を撮った後、高熱を出し、昨年10月3日に急死した。
伊禮さんは、白内障の手術から間もない平敷さんが、壕の中でアドバイスするそばで、シャッターを切った。その写真は1カ月後に開館した同センターに展示されている。
初個展の写真は71点。仕事で疲れて夕飯の支度をする伊禮さんの言うことを聞かない長男(8)の怒った顔。「慰霊の日」に「きょうはウートートー(お祈り)するんだよ」と教えられ、手を合わせる次男(4)。米軍基地の中に入って無くなった北谷町の集落名「伝道」の文字を刻む墓の門札。親子4人を中心に生活の風景が広がる。
伊禮さんは「平敷さんに出会えたから、一年忌の後に発表したいという気になった。戦後世代の私たちも親になり、戦争を伝える立場になった。ここで個展をすることが、この場所を知る平敷さんへの恩返し」と話している。
個展は17日まで(水曜休館)。午前9時〜午後6時。(八板俊輔)
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